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コラム

本に描かれた、庄内浜の魚たち

2022.03.30

鶴岡市出身の小説家、藤沢周平の作品には、「焼いた小鯛」「ハタハタの湯あげ」など作者が愛した庄内の味がたびたび登場し、行間に郷愁を垣間見ます。今回は、庄内の人々が地元の美味礼賛を綴った書籍の中から、魚について書かれた数冊を紹介。昔から美食家や食道楽たちがこぞって訪れた庄内の“浜の味”を食べ歩くような、おいしいエピソードや知識が満載です。

 

『漁村文化伝承の地 鶴岡市由良 浜のごっつぉ―魚図鑑と浜料理―』

庄内の冬の風物詩「寒鱈(真鱈)」の中でも“由良鱈”と呼ばれてブランド化するなど、県内で最も漁場に恵まれた地域といわれる、鶴岡市由良(ゆら)。

この由良地域の“おさかな文化”は、人々の生活が海と共にあることを表しています。地元のお母さんたちによる「ゆらまちっく海鮮レディース」がまとめた『浜のごっつぉ』は、由良産の魚介類の生態や漁法のほか、魚料理の基本や地元に伝わるレシピ、地域の伝統行事や習わし、由良の漁業を学べる「ゆらコラム」などを収録。海外の方にも日本の漁村文化を知ってもらおうと英訳も併記しています。昔ながらの漁村の知恵を伝え、四季の浜のごっつぉ(ごちそう)をみんなにおいしく食べてほしいという願いから生まれた1冊です。

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企画・編集・発行/ゆらまちっく海鮮レディース 2018(平成30)年

 

 

『浜から聞こえる豊穣』

庄内の郷土食の中でも「魚」を使った料理は、海沿いの土地の矜持を感じるものが多くあります。鶴岡市三瀬の料理宿「坂本屋」9代目の石塚亮さんがつくるその味は、生粋の浜育ちらしい、魚の本質的なうまさを物語ります。

本著では、鯛、口細ガレイ、岩ガキ、ハタハタ、ズワイガニなど庄内浜を代表する魚たちの特性や食べ方などがエピソードをまじえて描かれ、さらに「藤沢周平作品の中の庄内の味」などその見事な味の描写に読み手はたちまち魚の味が恋しくなります。

特筆しているのが寒の時期のマダラで作る「寒だら汁」。坂本屋では身を使わずどんがら=アラと味噌と岩のりだけで仕上げるのも石塚さんの想いが映ります。その根底にあるのは、北大路魯山人の「天然の味に優る美味なし」「新鮮に優る美味なし」、鶴岡の致道学の「個性伸長」。いわば“そのものを大事にする”という教え。料理人の仕事を知ってますますおいしい浜の味。食べるように読み、食文化を味わう1冊です。

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著者/石塚亮

発行/メディア・パブリッシング 2015(平成27)年

 

『庄内浜の海の幸でつくるレシピ集 はまべの味』

海・山・川の大自然を有する庄内は、「食を見れば季節が分かる」といわれるように、器の上に四季が表れる独特の食文化があります。

本書は、人気シリーズ『庄内の、在来作物でつくるレシピ集 はたけの味』(2011)、『庄内・やまがたのお米でつくるレシピ集 たんぼの味』(2012)に次ぐ第3弾。多魚種で知られる庄内浜の魚介類から代表的な11種類を取り上げ、1つの食材ごとに①伝統料理 ②家庭料理 ③創作料理のレシピを掲載。調理のポイントやアレンジ、下処理、保存方法など、魚料理がさらに楽しくなる内容となっています。

豊富なレシピに加えて、座談“浜文化への想い”も収録。実用的かつ食文化の貴重な記録でもある本書、ビジュアルな料理の数々を眺めていると、庄内のはまべの味が恋しくなります。

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発行/メディア・パブリッシング 2014(平成26)年

 

 

『庄内の味』

明治37年酒田市生まれの伊藤珍太郎さんの名著『庄内の味』は、アル・ケッチァーノの奥田政行シェフが“バイブル”とする1冊。「物々交換に始まる飛島の塩辛」「漁法がかえたハタハタの季節」など、食材、料理、人々の食をとりまく風景が洒脱な文体で綴られています。ごはんと魚を自然発酵させた「馴れずし」のようにあまり見られなくなった料理など、地域の食文化の記録としても貴重な資料です。

「尋ねきてみよ庄内浜の魚の味」の項では、「派手なうまさを看板にかかげる魚は全国に多いが 庄内浜の魚は味のち密さにおいて そう簡単に他地の魚類の追随をゆるすものではない」と熱讃。庄内浜の魚がうまい理由は「磯浜」にあるとして、マダイやコダイ、カレイ類を例に「磯のくだく波の荒さで魚体がしまる」「魚体にリズミカルな影響をおよぼす」などの仮説を立てています。

改訂版では藤沢周平が「この本を読んで、庄内のひとは土地のたべものを少々自慢してもいいだろうし、他郷に出ているひとは、故郷の味を思って泣くべきである」と序文を寄せている本書。「庄内の味」を知る代表的な1冊です。

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著者/伊藤珍太郎

発行/本の会 1974(昭和49)年初版、1983年改訂版

 

『庄内のうまいもの』

 

著書の日向文吾さんは大正2年生まれ。幼少期には父の実家の料理屋で過ごしていたことから、食べるものに興味を持つようになったのだろうと後に自身が振り返っています。市役所に長く勤め、芸術振興会議理事長などの要職を務めながら、郷土史への造詣を深め、文筆業にも勤しみました。

本書では、春夏秋冬それぞれのうまいものについて、淡々とした語り口ながら、饒舌に、想像と食欲をかきたてる項が並びます。特に夏と冬は庄内浜の魚が多く登場し、中でも「魚としては何といっても日本海の鯛が王様である」、さらに小鯛は湯野浜から海岸線を南下した「金沢」でとれるものを最上とし、塩焼きにして祝魚としても珍重されている、と書いています。

その食材が育った背景、調理方法、食べ方のススメがまとめられ、食することの理にかなっていて唸らされる1冊。自身を食通ではないと謙虚に語る著者ですが、初版のあとがきで「最後に、庄内で一番おいしいものは何、と問われたら、私は『水』と答える」とするあたりは、やはり食を慈しむ舌の肥えた人ならではの至言といえます。

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著者/日向文吾

発行/東北出版企画 1983(昭和58)年初版、1998(平成10)年新装増補