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コラム

フィッシャーマンズ・ドリーム “ブラックダイヤモンド”

2022.06.07

5月24日。

「マグロが始まったぞ!しかも、100㎏台を3本揚げたのが、新規就業者らしい。」という話を耳にし、これはまさに“漁師のロマン”とすぐさまお話を聞きに、鼠ヶ関港へ伺いました。

 

庄内浜でこれほどまでの大型クロマグロが漁獲されるようになったのは、昨年からのこと。

それ以前は30~40キロでもデカイなぁ!と言われていたそうです。

それが、昨年200キロ近い大物が揚がり、1キロ8,000円を超える値がつきました。

大間(青森県)のマグロでも、なかなか付かない高値だと言います。

はえ縄漁を営む漁師の皆さんは、装備を整え、今年のこの日を待ちに待っていました。

 

クロマグロは主に「はえ縄漁」という漁法で漁獲されています。

これは1本の幹縄に複数の枝縄をつけ、枝縄の先端に釣り針をつけて操業する漁法です。

この縄の、太さも釣り針の仕様も狙う魚によって変わり、当然クロマグロには太い縄と大きな釣り針が使われ、餌にはイカが丸々1匹使われます。

漁場は60~70キロも沖合、片道2時間30分の航海です。

漁場では漁師たちが、海図をもとに決められた場所を選び、同じ位置から同じ方向、同じ角度に同じ速度で針を流していくのだそうです。これは、大型のマグロが針にかかったまま走り回り、お互いの縄が絡み合わないようにする工夫です。なんせ相手は100キロを超える、あの巨体です。

 

日本人がお刺身やお寿司の中でも好んで食べているクロマグロですが、一時期クロマグロの資源量は最低水準に落ち込み、現在は資源保護のため、各都道府県で30キロ未満の小型魚と30キロ以上の大型魚それぞれの漁獲できる量が決められています。

今年度の大型魚の山形県漁獲枠は13t。

365日のうちの、1週間にも満たないたった数日の夢物語“ブラックダイヤモンド”なのです。

 

漁協職員も認める、誰よりも楽しそうな漁師

 

この日お話を伺ったのは、100キロ台を3本揚げたという新規就業者、祐天丸(ゆうてんまる)船長の松山武(たけし)さん。

なんと東京生まれの東京育ち、前職はイタリアでも修行をしてきた、イタリア料理の料理人だったというから驚きです。

そんな松山さんと鼠ヶ関港との出会いは、米沢市で働いていた時に趣味で通っていたボート釣り。

何度も通ううちに漁師の方々と親しくなり、山形県の漁業研修制度の話を知り、「やってみたい!」と移住しました。

移住後の2年間は、底引き網漁船の操業を体験したり、師匠となる海成丸(かいせいまる)船長の本間さんのもとではえ縄漁を学び、3年前に独立しました。

連帯で船を操業するはえ縄漁では、熟練者と同じ速度で船上でエサを付けながら流し、操船するのは想像以上に至難の業だといいます。

そのため、はじめの年は海図の割り当てにない枠外での操業。

それでも2年目は、96キロのマグロを揚げることができました。

「3年目の今年こそは100キロ台を1本でも揚げたい」。

その思いで、仕掛けも変えてその日に向けて構えは万全。

獲れるも獲れないも必然だ、と念珠関支所の支所長は言います。

 

その日。

40分を超える格闘の末、真っ暗な海面から突き出た頭は、腕で円を描くほどに大きなものでした。

マグロが掛かると1キロ先からでもわかるほど、流した縄がピンと張るのだそうです。

その瞬間の「キターーーーーー!」というアドレナリンの噴出量、高揚感は他の魚では決して味わえないと、皆が口を揃えます。

陸から遥か遠く離れた海の上、たった1人船の上で、あれだけの大きな生物と対峙する畏怖とそれを凌駕する高揚感。それを想像しただけでも、ドキドキと鼓動を打ちます。

 

たった数日のクロマグロ漁。

実は松山さん、3本揚げて3本逃げられたんだとか(笑)

逃げられた理由を反省して、来年は目指せ10本!

でも普段は、鯛を獲るのが好きなんだと本当に楽しそうに話してくださいました。

また来年この浜が湧き上がる一瞬には、どんなドラマがあるのでしょうか。