サスティナビリティと変革
海水温の上昇や磯焼けとよばれる海藻が育ちにくい海の中、海洋汚染など、様々な要因によって、海洋生物の変化や減少が問題視されるようになって久しいが、その光景を目の当たりにすると、衝撃は思った以上に大きく、深刻だ。
著者は、ある事業の一環で春(6月中旬)か秋(10月上旬)に隔年で、由良港の定置網漁船に体験乗船をさせていただいている。
定置網漁業では、網を降ろす漁場がだいたい決まっているため、春漁と秋漁の魚種の違いやその時期の漁獲量の変化を如実に感じることができる。
今年も10月の1週目に2年ぶりに乗船させていただいた。
一か所目の漁場で、以前には見られなかった光景にポカンっとしてしまう。
船長がゆっくりと、慎重に網を上げるように指示を出している。
そうして網が船上に上がるや否や、ビタビタと威勢の良い魚たちを船員が素早く、一斉に海へとリリースし始めたのだ。
メジマグロの幼魚だ。
二か所目でも三か所目でも同じことが繰り返され、その量の多さには驚くばかりだ。
こんなに多い年もないという。
そして網に掛かる魚も初めて見るものが多くあり、驚きは続く。
まずは、何色とも形容しがたい大型魚シイラだ。
(シイラ)
そして、上あごの先端が長く尖ったバショウカジキ。
「南国か!」「海外か!」
と、思わずツッコミを入れたくなる。
いずれも温暖な海に生息する魚というイメージのものが、海面から姿を現す。
(バショウカジキ)
アジなどの小型サイズの魚にも見慣れないものが混じっている。
「これはエソ」「これはシロサバフグ」と、船員のお兄さんが教えてくれる。
船員のお兄さんも、初めて見る魚はとりあえず食べてみるとのことで、食べ方まで教えてくれる。
(エソ)
(シロサバフグ)
逆に、あれ??っということもある。
鮭がこの日は3匹しか上がらなかった。
アオリイカも2年前に比べると減っている。
海水温が下がらないために、獲れる時期が変わってきているのか、生息範囲が変わったのか、たった一日乗せていただいただけでは分からない。
しかし、毎日毎日何十年と船に乗る漁師さんの口から語られる現状はシビアだ。
「鮭も10年前の今頃はよく獲れていた。近年はこの地域で食べる風習のない魚がどんどんあがってくる。食べる習慣のある地域では高級魚でも、習慣のないこの地域では食べ方も分からず買い手がつかない。」
(2020年のイカの様子)
(2020年の鮭の様子)
私たちは、秋だからハタハタが食べたいね、冬だから寒ダラが食べたいねと季節の移り変わりの中で、ずっと変わらずにそれらがあるように誤認してしまっているのかもしれない。
庄内は季節とともに魚も移ろい、魚と寄り添った食文化が根付いてきた。
しかし、食文化を無理なく継承しながらも、私たちが自然の変化に寄り添い、低利用魚とされる魚たちにも食べ方や調理法を見出し、新たな食文化を築いていく時なのかなと感じた。
それが強いては、海洋資源の有効活用と、漁師さんの生活を守り、漁業を守ることにも繋がっていくことを期待して。