
浜といきる女性たち VOL.1
一昨年2月に宮城県から酒田市に移住し、「一人親方」として漁船操業を行うことができる 山形県初の女性漁師となった 志田圭さん。
水産業における人手不足や高齢化などの課題解決に向けた新規漁業就業者支援制度を活用し、1年間の研修をやり遂げ、2025年の春、晴れて漁協の組合員となりました。
とっても親しみやすい朗らかな笑顔の圭さんは、一見しただけでは「どこから魚を釣り上げるようなパワーが?」と思うほどチャーミング。
そんな圭さんが漁業にのめり込む魅力、そして移住までした庄内の魅力、更にはこれからの目標について、お話を伺いました。
圭さんを釣りの世界に引き込んだのは、なんと10㎝ほどのハゼ。
そのハゼを初めて釣り上げた時、体中に電気が走るほどの感動を覚えたことがきっかけでした。
ハゼの一撃ですっかり釣りにはまり、休日の全てを釣りに捧げ、「船酔いしてでも釣りたい」と思うほど熱中して10年、タイやベトナムまでも釣りをしに旅をしたといいます。そんな中、酒田との縁をつないだのはマグロでした。
圭さんは、「1番好きな魚種はマグロ」という大のマグロ好き。
酒田の海で、マグロが洗濯機のように渦を巻いている様子を見て、頭が真っ白になるほどの興奮を覚えたそうです。
―帰りたくない。ずっとここにいたい。―
それが、酒田で女性漁師となる原点でした。
とは言え、あくまでも趣味だった釣りと仕事としての漁は全くの別物。
これを生業として生計を立てなければならないプレッシャーと真っ暗な夜の海を操業する重圧、様々な葛藤があるといいます。
それでも研修をやり抜くことができたのには、師匠の存在と圭さんにとってのレジェンドの存在がありました。
圭さんに1年間研修を指導したのは第五平成船長の佐藤さん、通称 鬼平!
佐藤師匠は中学卒業とともに船に乗り漁師となった、生粋の酒田漁師です。
初めての女性漁師研修生ということで、少なからず周囲からは懐疑的な意見がある中で、「この娘を断ったら、もう二度と山形県で女性漁師が生まれることはない」と言って受け入れてくれたのが佐藤師匠でした。
釣りは名人でも、漁業は素人。
右も左も分からずに漁業界へ飛び込んだ圭さんに惜しみなく仕事を教えくれました。
こうして圭さんは、漁協について、漁船について、海の住所となる地形について、魚のいるところと寝るところについて等々、一つ一つを習得していきました。
また、所得の少ない研修期間には、食材を差し入れてくれたり、ご飯をごちそうしてくれたりと、周囲の漁師さんたちからも支え、応援してもらったと、聞かせてくれました。
そして、もう一人心の支えとなったのが、圭さんの中のレジェンド飛島の太田ひろ子さんです。太田さんは80歳を超える現在も、現役の夫婦船として刺し網操業を行っている漁師さん。
細腕で魚箱をいくつも運ぶ姿、重い網を手繰り上げる姿に、「女性だって何でもできる!」と勇気を貰いました。
お話を伺っていると、ご自身のお話より佐藤師匠や太田さんのお話ばかりになる圭さん。
「漁師はカッコいい仕事!」と力強く話します。
“同期“ができたら、これまで自身が師匠をはじめ漁師仲間の方々に支えてもらったことを、自分も返したいんだと微笑みます。
市場の中で、声をかけてもらえるだけで全然(心持ちが)違う。
魚も少なくて、魚価も安い。そして出漁できる日数も少ない中で、協力したり共有したりしながら、ああだこうだと話ができることの中に、未来がきっとある。
まずは、一日でも早く、一匹でも多く出荷できるようになって、師匠たちに恩返しをしたい。そのように真っ直ぐな思いで漁業のこれからを見据えていました。
最後に、圭さんのインスタグラムを見せていただくと、なんとフォロワー2万人越え!
えっ??圭さん??スゴすぎません??
酒田はね、すごいんです!
海がこんなに近いのに、飲食店街までも10分と掛からない。買い出しにも銭湯にも便利。
釣り人にとって最高の場所です!
それに庄内の魚は、けた違いに美味しい。
寒だらなんて衝撃的な美味しさだし、メバルも海老やカニを食べているから色も鮮やかで、身も太っていて、サイズも大きい。宮城ではこんなに大きなメバルは見たことがなかった。
庄内の人たちは、贅沢な暮らしを天然でやってる、本当に魅力的な街。
その魅力を全国の人にもっと知ってほしい。そして庄内に来てほしい。それから、漁業の面白さを一般の人にも知ってほしい。
ここにいるから知れたことを、自分のSNSを通して知ってもらえたら嬉しいと思いながら、やっています。
と、庄内・酒田への愛情をマシンガンのごとく話してくださいました(笑)。
沖に出て、ひとたび何かあれば助け合うことができるのは漁師仲間だけの社会で、女性であることは、まだまだたくさんのハードルがあることだと思います。
しかし、「目標は80歳まで現役!自分で決めたら、そこに向かってゆくだけです!」と爽やかに語る圭さんのお話を伺うと、女性としての感性がこれからの漁業界に新たな風をもたらしてくれるのではないかと、期待感を抱かずにはいられません。
現在、圭さんは自身の船の進水に向けて準備を進めています。
パートナーとなる船の名前は、お世話になった方々の名前をもらい「進盛丸」。
圭さんの挑戦は始まったばかり。
でも、女性漁師って最高にカッコいい!
写真提供:志田圭さん