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コラム

庄内浜の“活け締め”が世界の“IKE-JIME”に!?

2024.09.24

皆さん、「活け締(い じ)め」という言葉は聞いたことありますでしょうか。「活締(かつじ)め(活〆)」とか「活け締め神経(しんけい)抜き」とか、色んな呼び方がされています。庄内浜でももちろん、「活け締め」処理された魚はたくさん水揚げされています(写真1)。庄内浜の産地市場に行くと、「活け締め」のシールが貼られている魚をたまに見かけますが、スーパーで魚を切り身で購入することが多い方にとってはあまり見る機会はないかもしれません。

写真1 由良の活け締めのマダラ。これには沖〆という名前が付いています。

活け締めって何?
さて、この「活け締め」という技術はかなり昔から日本にはあったようですが、世に広まったのはこの技術が科学的に評価されるようになった今から20年くらい前ではないかと思います。元々この技術は、魚の死後硬直までの時間を延ばし、イノシン酸によるうま味のピークを高めることができる技術として広まりました。締めた時間からうま味のピークをコントロールし、ベストな状態でお客さんに提供することができるということで、高級料亭などで重宝され、ごく一部の漁業者や仲買人、料理人など、知識と経験を兼ね備えた達人だけが扱える技術でした。
私たちの庄内浜で最初にこの技術を取り入れたのが今から14年前の2010年にブランド化された「庄内おばこ○Rサワラ」です(写真2)。鶴岡市小波渡のはえ縄漁師「鈴木重作さん」が当時庄内浜で来遊が増えてきていたサワラに目を付け、自ら試行錯誤して「活〆神経抜き」の技術を会得しました。具体的には、「延髄切断」、「脱血」、「神経抜き(締め)」、「冷やし込み」という個々の技術を組み合わせたものが、ここで言う「庄内おばこ○Rサワラの活〆神経抜き」です。あえてこのように説明したのには理由があり、実は「活け締め」という技術には定義がないのです。「延髄切断」もしくは「脳破壊」だけで「活け締め」と呼んでいる場合もありますし、「脱血」だけでそう呼んでいる場合もあります。つまり、巷ではオリジナルの活け締めが多いということです。

写真2 庄内おばこ○Rサワラ(写真提供:山形県庄内総合支庁水産振興課)

「庄内おばこ○Rサワラ」が日本の食文化を変えた!
話は逸れましたが、「庄内おばこ○Rサワラ」の「活締め神経抜き」は技術マニュアルでしっかり定義され、山形県水産研究所で科学的に効果が裏付けされています。サワラを刺身で食べるという食文化は、昔は庄内浜はもちろん東京を含めた東日本には無いものでした。しかし、活〆神経抜きを施した「庄内おばこ○Rサワラ」は、足が速いと言われていたサワラの常識を覆し、一週間以上刺身で食べられる鮮度を維持することができるようになりました。当時の東京築地市場では「日本一のサワラ」と呼ばれ、東京でもサワラを刺身で食べる文化が定着しました。当時の築地市場で庄内おばこサワラを扱っていた仲卸の担当者も、「現在の東京のサワラ生食ブームを作ったのは間違いなく「庄内おばこ○Rサワラ」だ。」とおっしゃっています。今では庄内浜はもちろん東日本全体にもこの食文化は広がり、もともと食文化があった瀬戸内以外の西日本でも広がりを見せ、日本全国でサワラの生食文化は定着しています。庄内浜からこのように日本の食文化全体に影響を与えた魚があったこと、皆さんは御存じでしたか?

写真3 庄内おばこサワラの刺身(写真提供:山形県庄内総合支庁水産振興課)

IKE-JIME時代の到来!
もともとはごく一部の達人だけが扱っていた活け締め技術ですが、最近ではどんどん進化し、独自の名前が付けられたりしてSNSなどで急速に一般に広がっています。
数年前に韓国に遊びに行った際の話ですが、韓国の友人の弟と話をしていると、彼の口から「IKE-JIME」の話が出たのです。彼はたまに釣りをするため、YouTubeでIKE-JIMEの動画を見て色々勉強しているのだそうです。ごく普通の20代韓国人男性が「IKE-JIME」という言葉を知っていることにも大変驚きましたし、IKE-JIMEが日本以外でも広がっていることを実感する出来事でした。
そしてさらに、昨年のことですが私はIKE-JIMEの講師としてタイにあるSEAFDEC(東南アジア漁業開発センター)に招かれました。近頃の世界的な日本食ブームもあって東南アジアでも日本の鮮度保持の考え方が非常に注目されているということで、ASEAN諸国の行政官や研究者に向けた講習をしてほしいという依頼でした。講習では庄内浜で実際に取り組まれているIKE-JIME技術の科学的なメカニズムをお話し、実際にティラピアを使ってIKE-JIMEの実演も行いました(写真4)。この出来事で更に世界でのIKE-JIMEの広がりを実感しました。これからの将来、庄内浜の活け締めが世界のIKE-JIMEとして羽ばたく日も近そうです!

写真4 タイでのティラピアを使ったIKE-JIMEの実演

山形県水産研究所 主任専門研究員 髙木牧子