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コラム

鯛のアイシャドウ

2021.03.24

庄内浜の天然鯛は、ブルーのアイシャドウ輝く美しさと、

淡い美味しさが魅力。

「鯛という魚の味は非常に淡白です。この魚をテーマにキャンペーンを行うことは、その土地の民度が高くなければ通用しないことです。」

今回、トトタベローネ庄内浜で天然鯛のキャンペーンを行うにあたり、事務局では庄内浜にとって「鯛」とはどんな魚なのか、様々な方からヒアリングを行いました。その中で、石塚亮さんから、冒頭のようなシビアなお言葉をいただきました。

石塚さんは鶴岡市三瀬地区で300年を超える歴史をもつ旅館・坂本屋の9代目ご当主。庄内浜の魚食文化を振興する庄内浜文化伝道師のおひとりでもあります。 「鮮度の良い鯛は瞼に青いラインが入っているんですよ。鮮度が落ちれば消えていくのですが、赤い体にブルーのアイシャドウというのが、本当に美しい。形だって、子どもが描く魚の絵って鯛の形をしているでしょう。まさに絵になる魚。味も非常に上品です。」

ご自身の著書「浜から聞こえる豊饒」でも、中国の古典『菜根譚』にある言葉「真味只是淡(真の味わいというものは、さらりとして淡白なもの)」を引用し、鯛の美味しさはまさにこの、飽きのこない味「淡」であると説いています。ところが…

「養殖サーモンのトラウトのような旨味の強い魚が多く出回るようになって久しく、今ではそっちの方が美味しいと感じる人が出始めています。また、お客様に鯛の塩焼きをお出ししても、なかなか食べてくれないんですよ。原因は、骨があるから。お客様は面倒臭いものは食べない。危ないものも、手が汚れるものも食べない。」

確かに、宴席や祝い事などで尾頭付きの鯛が出てくると、手が汚れたり、食べ方の巧拙を周りの人から見られたりするのが嫌で、つい残してしまいます。

そんなお客様の反応を目の当たりにする中で誕生したのが、坂本屋流の「小鯛の塩焼き」です。一尾を縦に真っ二つに割り、割れ目から骨をすべて抜き取ったもので、頭をポンと落とせば、あとはかぶりついて食べられます。

「本来なら、鯛の中骨と身の間のところが美味しいんです。でも、骨が邪魔で食べたくないっていう人は、こういう提案をしたら食べてくれる。いくら作り手の自分にとって最高の料理を出せたとしても、お客様が食べてくれたり、認めてくれなかったら意味がないんです。料理人がその腕で素材の弱点をカバーすれば、食材が抱える問題は解決できるんです。そういう意味で、自分たち料理人も進化していかなくてはいけないんです。」

この日の御膳は庄内浜の小鯛をふんだんに使った「小鯛御膳」。前述の塩焼きの他にも、お造りや、尻尾をパリパリに揚げた天ぷらなどが並びます。

その中で興味を引いたお料理がもう一つありました。それは押し寿司の「小鯛寿司」。おろした小鯛の骨を抜き、酢で締めたのちに一度焼いており、香ばしさを感じます。手間暇をかけた愛情ある一品です。

「庄内浜で、6・7月ごろに美味しい魚っていうと、小鯛。小鯛は産卵が9月ごろなので、今、栄養を蓄えて太っているので美味しいんです。小鯛が安くて美味しいから寿司にしようと考えたメニューで。小鯛の旨味が弱いので、旨味をプラスするためにとろろ昆布が挟んであります。」

小鯛の弱点は、サイズが小さくて食べるのが面倒な点。それを丁寧に下処理し、押し寿司にアレンジすることで食べやすく仕上げています。 「鯛は作り手の手間さえクリアできれば、味としては十分通用するし、見た目も綺麗。その淡い味わいを受け入れる力が今のこの町にあるかどうかは分からないです。けれど、受け入れてもらえるように作り手側が絶えず努力していくことは必要だと思っています。」